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2026.04.15

30弁以上の高級オルゴールの仕組み・手作業工程・音質の違いを徹底解説│ニデック オルゴール ショールーム(Vol.4)

前回のブログでは、シリンダーオルゴールには18弁オルゴール、23弁オルゴール、30弁以上の高級オルゴールがあることをご紹介しました。そして、30便以上の高級オルゴールは高い専門技術を持つ熟練技術者の手作業を経て作り上げられていることも簡単にご紹介しました。少々繰り返しの内容もありますが、今回の記事では「30弁以上の高級シリンダーオルゴール(30弁・50弁・72弁)」の製造工程について、もう少し詳しく解説していきます。
特に今回は、オルゴールの機械部分の製造工程でで最も重要な「①釘打ち」「②調律」「③噛み合い」と呼ばれる工程を中心に解説していきます。

【高級オルゴールのシリンダーの構造|ピンによる発音】

前回のブログでもご紹介した通り、国内で製造されている18弁や23弁オルゴールはシリンダーの表面にプレス加工で作られた突起物(凹凸)で振動板の櫛歯(弁)を弾いて音を出す仕組みです。

一方で、現在日本で作られている30弁以上のオルゴールのシリンダーの突起物は、シリンダーの表面に作られた凹凸ではなく、シリンダーの方面から無数に突き出た「ピン」と呼ばれる細い針状の金属です。この「ピン」はシリンダーの表面に接着されているのではなく、シリンダーに穴を開けて、その穴に植え込まれています。

基本的な音を出す仕組み自体は18弁や23弁とほぼ同じなのですが、このシリンダーの突起物の形状(構造)の違いが、18弁や23弁オルゴールと30弁以上の高級オルゴールで大きく違う部分ともいえます。

ここで30弁以上のオルゴールの音を出す根幹部分のパーツを再度整理しておきます。

①「シリンダー本体」:真鍮製(ゴールド色)の円筒で、ゼンマイの力で回転します
②「ピン」:シリンダーに植え込まれた細いステンレス製の針のような金属
③「弁」:櫛のような振動板の櫛歯、ピンに弾かれることで音を出す音源部

この3つの部品が正確に作り上げられ、正確に組み立てられることによって、高い音質の美しいメロディーを奏でることが可能になります。

そして完成度の高い演奏のためには、シリンダーに植え込まれた「ピン」が櫛歯(弁)の先端を正確に捉え同じ深さで振動板を弾く必要があります。この精度が狂うと、リズムや音の強弱に影響が出てしまいます。
そのため「ピンの植え込み工程」は、オルゴール製造の中でも最も重要な工程の一つとされています。

【①針打ち工程|精密機械と職人技の融合】

シリンダーに穴を開けてピンを打ち込む工程は「針打ち」とも呼ばれます。
現在では専用の精密機械でシリンダーに穴を開け、ピンを打ち込むことができるようになっていますが、以下のような作業は人の手で行われます。

・シリンダーの機械への正確なセッティング
・打ち込み状態の確認
・ピンの研磨と長さ調整

ピンの長さは0.0Xmm単位の精度が求められ、技術者は計測器だけでなく、目や手の感覚でも確認しながら仕上げます。ピンが植え込まれたシリンダーは「オルゴールの心臓部」と言える存在です。

【②振動板の調律|1弁ずつ手作業で行う理由】

正確にメロディーを奏でるためには、振動板の櫛歯(弁)が確かな音程で音を発するように精密に調律する必要があります。18弁オルゴールの櫛歯(弁)も1本1本の調律が行われているのですが、18弁シリンダーオルゴールの場合は生産能力を高めるために、この調律についても「機械による自動化(オートメーション化)」がなされています。18弁オルゴールの製造ラインの中には、音センサーと自動研磨機を使った機械による調律(研磨調律)の工程があり、18弁の振動板はオートメーションで正確な音程を出せるように調律されています。最終的に出来上がった製品の抜き取り検品では人の手で確認されますが、製品全ての検査を人手で行っているわけではありません。(23弁の振動板もほぼ同様です。)

一方で、30弁以上の高級オルゴールの調律はすべての振動板の弁一本一本を手作業で調律していきます。
手作業が必要な理由としては、
・音数が多く、複雑な編曲の(ハーモニー・トレモロなど)演奏を行う
・そのため、わずかな音程ズレでも違和感が出る
といったことがあげられます。

そのため技術者は、
①耳で音を確認
②音波センサーに表示される音の波形を目で確認
③弁の裏側を研磨して細かく調整
という工程を一本一本の櫛歯(弁)に対して何度も繰り返し、正確な音を発するように仕上げていきます。

【日本のオルゴール品質を支える技術者】

この調律の技術は、簡単に習得できるものではなく、長期間の研修と経験を経ないと得ることはできません。現在ニデックインスツルメンツでは、30弁以上の振動板の調律ができる技術者はわずか2名、最終仕上げの調律を担えるのは1名のみです。

国内で製造されている30弁以上のシリンダーオルゴールの振動板は全てニデックインスツルメンツの諏訪の工場で製造されていますから、日本の高級オルゴールは「限られた技術者の技能によって支えられている」ということになります。言い換えれば、「現在の数少ない技術者とその後継者がいなくなってしまうと品質の高い国産高級オルゴールの歴史が途絶えてしまうことになる」とも言えるのです。

【③噛み合い調整|音質を決める最終工程】

シリンダーへの針打ち工程や振動板の櫛歯(弁)の調律がオルゴールの品質を決める重要な工程であり、それが高い技術者の耳と目と手の作業で行われていることはおわかりいただけたと思いますが、その高い技術で完成した振動板とシリンダーを正確に台座に取り付ける作業も、オルゴールの品質を決める重要な工程といえます。

ポイントは以下の通りで、
・ピンが櫛歯の先端の真ん中を正確に弾く
・シリンダーと振動板が完全に平行にセットされている
・すべてのピンが適正な深さ(振動板との噛み合いの深さ)で弾かれる
ということが求められます。

専門技術者の高い技術で完璧な状態に仕上げられたシリンダーと振動板でも、ピンが振動板の櫛歯(弁)を正確に弾く位置にセッティングされないと完全な演奏はできません。
まず、ピンが正確に櫛歯(弁)の先端の真ん中を弾かないときれいな音は出ませんし、左右でピンと櫛歯(弁)の噛み合い具合(深さ)が違っていたりすると、高音と低音で音の強弱や音質が変わってしまいます。
さらに、シリンダーと振動板の全体の噛み合いの深さ(ピンと櫛歯の重なりの深さ)もオルゴールの音質を決定付ける重要なポイントになります。全体の噛み合いが浅ければ音は小さく印象の薄い音色になってしまいます。また、噛み合いが深ければ大きな音が出ますが、深すぎると意図しない振動が発生して音がブレたり、不要な共鳴を起こして雑音を発生させたりします。

噛み合い調整の技術者は、シリンダーを回転させて音を耳で確認しながら、振動板の位置を調整し、完璧な位置で振動板を固定して取り付けます。この噛み合い調整の工程も、オルゴールが美しく心地よい音色を奏でるための重要な工程の一つなのです。

【高級オルゴールが生み出す価値】

このように、30弁以上のオルゴールの機械部分は人の手や耳を駆使して丁寧に部品が作られ、組み立てられます。そして最終的に筐体と呼ばれる入れ物に取り付けられて製品化されます。
高級オルゴールは、
・手作業を交えた精密な部品製造
・職人の耳と目による調律や組み立て
・高い技術を持つ技術者による最終調整
を経て作られています。

そして、その結果として、
・美しく心地よい音色
・深みのある演奏表現
・長く愛される品質
が実現するのです。

丁寧に人の手で作り上げられた高級オルゴールは、大切な人へのプレゼントや記念品として相応しい上質なオルゴールです。また高級オルゴールの美しい音色は、自分の手元におくことで、生活に彩りや癒やしのひとときを与えてくれます。

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今回のブログでは、30弁以上の高級オルゴールの機械部分がどのように丁寧に作り上げられているかを少し詳しくご紹介させていただきました。

繰り返しになりますが、ポイントをまとめると、
・多くの工程が手作業で行われる
・シリンダーはピンを一本一本植え込む構造
・振動板は1弁ずつ手作業で調律
・音質は噛み合い調整で決まる
ということになります。

30弁以上のオルゴールが「なぜ高級オルゴールと位置づけられているのか?」、「なぜ美しく心地よい音色を奏でることができるのか?」がある程度おわかりいただけたかと思います。

次回のブログでは、50弁、72弁シリンダーオルゴールの30弁以下のオルゴールには無いシリンダーの仕組みとその魅力についてお話したいと思っています。

(Akio Hisada/ニデックインスツルメンツ)

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